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狂った世界 Mad world! mad kings!:ジョン王


シェイクスピアは「ジョン王」に登場する人物たちを、聊か類型的に描き出している。それはこの劇が、ほかの歴史劇に比べて、歴史上の出来事により忠実だったことの裏返しでもある。

その人物たちの中で、ファルコンブリッジだけには、歴史を超えた人間の生の姿と、生き生きした精神が吹き込まれている。

ファルコンブリッジは、劇の進行の中で、節目節目に気の聞いた台詞をはくことによって、歴史上の出来事に対する、作者なりの評価を代弁しているかのようである。

そんな歴史上の出来事の中で、英仏両国がアンジェーの市民による抵抗に直面して、それを打ち破るために取り決めた盟約は、演劇作者の大いなるイマジネーションに訴えたようである。

英仏領国は、それぞれアンジェーに対する主権を主張して戦っていた。ところが当のアンジェーの市民たちは、双方の主張する主権を素直に認めない。そのため戦いの当事者たちは共同して、彼らを屈服させようとしたのである。

その盟約の裏づけとして、ジョン王の姪とフランスの皇太子の婚約が取り交わされ、ジョンはアンジェーの主権をフランス側に売り渡すのだ。

シェイクスピアはその取り組みの中に、祖国や正義といったものではなく、権力者たちの醜い姿を感じ取った。そしてそれに対する強烈な批判を、ファルコンブリッジの口を借りて述べるのである。

  狂った世界 狂った王たち 狂った取り決め
  ジョン王はアーサーから国全体の権利を取り上げるために
  その一部を喜んで手放し
  フランス王は、良心で武装し
  熱意と正義に駆られ 神の兵として
  この戦場へやって来たにかかわらず あの陰険な魔物に耳打ちされた
  それはほかでもない心変わりをさせる魔物
  平然と誓いを破るブローカー
  日ごとに破約するもの
  王からも 乞食からも 老人からも 青年からも 娘からも
  誠をとりあげ そして処女という名しかもたぬ娘からは
  処女そのものまでとりあげてしまうのだ
  厚顔無恥の紳士 それは言葉巧みな利害というやつ
  その利害が 世界を捻じ曲げるのだ
  Mad world! mad kings! mad composition!
  John, to stop Arthur's title in the whole,
  Hath willingly departed with a part,
  And France, whose armour conscience buckled on,
  Whom zeal and charity brought to the field
  As God's own soldier, rounded in the ear
  With that same purpose-changer, that sly devil,
  That broker, that still breaks the pate of faith,
  That daily break-vow, he that wins of all,
  Of kings, of beggars, old men, young men, maids,
  Who, having no external thing to lose
  But the word 'maid,' cheats the poor maid of that,
  That smooth-faced gentleman, tickling Commodity,
  Commodity, the bias of the world,

「狂った世界 狂った王たち 狂った取り決め」とは強烈な言葉だ。何がどう狂っているのかは、観客にはよくわかっていただろう。それは自分たちの日常の世界を象徴するようなフレーズに違いなかったろうから。





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