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突破口を突撃せよ Once more unto the breach


ヘンリー五世はイギリスの歴代の王の中でも、もっとも人気がある王といってよい。その理由は彼がフランスとの戦争において、数の上では劣勢であるのにかかわらず、兵士たちの勇気を鼓舞して勇敢に戦い、圧倒的な勝利を収めたことにある。国民国家の間で絶えず戦争がなされていたヨーロッパの歴史において、国民を勝利に導いた英雄は、その国の人々の記憶に、長く残り続けてきたのだ。

この劇の第三幕は、イギリスとフランスとの間の戦闘を描いているが、その中でヘンリー五世が兵士たちに向かって叫びあげる言葉は、この劇のハイライトとなっているとともに、今でもイギリス人の心に訴えかけるものとして、とりわけ有名なものだ。

  もう一度突破口を突撃せよ 諸君 もう一度
  さもなくば城壁をイギリス人の死体で塞いでしまえ
  平和の折には礼儀正しさと謙遜とが
  紳士のたしなみでもあろうが
  いったん戦いの嵐が我らの耳に吹きすさぶや
  トラのように振舞うがよいのだ
  筋肉を引き締め 血を沸き立たせろ
  穏やかな心を恐ろしい怒りで覆いつくせ
  Once more unto the breach, dear friends, once more;
  Or close the wall up with our English dead.
  In peace there's nothing so becomes a man
  As modest stillness and humility:
  But when the blast of war blows in our ears,
  Then imitate the action of the tiger;
  Stiffen the sinews, summon up the blood,
  Disguise fair nature with hard-favour'd rage;

イギリス人は日ごろ自らをジェントルマンの国だと思っているが、いざ戦いの場面に臨んでは、ジェントルマンとしての優雅さをかなぐり捨て、トラのような獰猛さをも発揮できるのだ、イギリス人はみなそう思っている。

シェイクスピアがヘンリー五世に吐かせた言葉は、民族の自尊心に強く訴えかけるものがあったのだろう。この言葉は爾来、イギリスが行った対外戦争の節目節目で、兵士たちによって歌われ、戦場にこだましてきたのだ。

ヘンリーの叫びはさらに続く。

  進め 進め イギリスの貴族たち
  命知らずの父親から生まれたことを忘れるな
  父親たちは一人ひとりがアレクサンダーとなって
  ここフランスの各地で昼夜を問わず戦い
  敵がいなくなるまで剣を収めなかったのだ
  そんな父親から生まれたことを証明してみろ
  さもないと母親を辱めることになるぞ
  兵卒たちの模範となり 戦いの仕方を教えてやれ
  そして諸君 イギリスの郷士たちよ
  諸君もイギリスで生まれ育ったからには
  イギリス魂を存分に発揮して
  さすがはイギリス男児だといわせてくれ
  On, on, you noblest English.
  Whose blood is fet from fathers of war-proof!
  Fathers that, like so many Alexanders,
  Have in these parts from morn till even fought
  And sheathed their swords for lack of argument:
  Dishonour not your mothers; now attest
  That those whom you call'd fathers did beget you.
  Be copy now to men of grosser blood,
  And teach them how to war. And you, good yeoman,
  Whose limbs were made in England, show us here
  The mettle of your pasture; let us swear
  That you are worth your breeding;(V.1)

ヘンリーはここで、王者としてではなく、戦いの仲間として兵士たちに語りかけている。命を懸けて運命を共にする者にとって、身分の上下は問題ではない、共通の目的に向けて力をあわせて戦うことにこそ意味がある、そうヘンリーは叫ぶのである。





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