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ハムレットの独白 What an ass am I !


ハムレットはよく独白する。四大独白と呼ばれる長い独白のほかにも、節々で独白する。独白するのはハムレットだけではない。国王のクローデイアスもところどころで独白する。ハムレットもクローディアスも自分自身に向かって語りかけている。
また形の上では独白ではなく、語りかける相手がいる場面でも、実質的には独白に近い部分もある。それらはだいたい長い科白からなっている。長い科白は他にもたくさんある。こんなにも長い科白が連続する劇は特異だとさえ言うことができるほどだ。

ハムレットという劇が普通の劇と比べて異常に長くなってしまったわけは、登場人物たちの科白のひとつひとつが長いことにある。同じことを言うのに、役者はああでもないこうでもないと、言葉をいじくりまわしては、必要以上に長く言説している、こういうことができるように思う。

さてハムレットの四大独白のうち二番目のものは、第二幕の第二場で語られる。第一の独白のうちでは、ハムレットは父親の死に疑念を抱きながら、真相がわからないままに、憂愁に沈んでいるばかりだったが、この場面においては、事情はいささか明らかになってきている。

まず父親の死の真相については、父親自身の亡霊が息子のハムレットに語って聞かせ、復讐するようにとそそのかしていた。それに対してハムレットは狂気を装いながら心のうちを隠し、復讐の機会が訪れることを待っている。

そんなところに旅芸人たちの一行がやってくる。ハムレットは芸人たちに、ゴンザーゴ殺しの劇を演じるように求める。この劇は正当な王を殺すことによって王位を簒奪する物語である。もし亡霊のいうとおり、クローデイアスが先王を殺すことで王位を簒奪したのであれば、この劇を見て顔色を変えるはずだ。

ハムレットの独白は、芸人たちと初めてであった直後になされる。芸人たちはハムレットのいうままに、さまざまな演技をする。それを見たハムレットは、役者たち Actors がその名に恥じず Action に果敢なのに、自分は何の Action も起こせないでいるといって、自分を責めるのだ。


  ああ俺はなんという卑劣なやくざ者なんだ!
  さきほどの役者を見てみろ
  作り話の絵空事とはいえ
  全霊をかけて役に打ち込んでいたではないか
  演じながら顔は青ざめ
  眼は涙にくれ 表情はゆがみ
  声はかすれ 体中で役に徹していた
  それも何のためにだ!
  ヘキュバのためだ!
  あの男にとってヘキュバとは何だ?
  ヘキュバにとってあの男は何なのだ?
  もしも俺と同じ動機をもっていたら
  あの男はなにをやらかすだろう?
  ステージを涙で溢れさせ 恐ろしいせりふで
  観衆の耳をつんざき 罪あるものを狂わせ
  罪なきものをも驚かせ 無学なものをうろたえさせ
  眼と耳のあらゆる機能を麻痺させるだろう
  ところが俺ときてはただの間抜けな悪党
  夢遊病者のようにうろつきまわり
  大儀を忘れたまま何もいうことさえできぬ
  位も命も残虐非道に奪われた王のために
  何もしようとさえしない 臆病だからか?
  誰だ 俺を悪党呼ばわりするのは? 俺の頭をかち割り
  俺のひげを抜いて 顔に吹きかける奴は誰だ?
  俺の鼻を捻じ曲げ うそつきだといって
  俺を攻め立てる奴は誰だ?
  ハア!
  なんといわれようと仕方がない
  俺は鳩のように弱虫で屈辱を跳ね返す勇気に欠けているのだ
  さもなければ今頃は
  あの悪党のハラワタで
  トンビどもを肥らせていたはずだ
  あの血なまぐさいスケベ野郎め!
  残忍非道で色気違いの大悪党め!
  おお 復讐!
  エイ なんて間抜けな奴なんだ俺は?
  愛する父親を殺されて
  復讐するよう攻め立てられているというのに
  売奴のように胸の思いを吐き散らし
  口汚く罵り騒ぐだけ
  下司野郎と変わりはせん!(第二幕第二場)
  O, what a rogue and peasant slave am I!
  Is it not monstrous that this player here,
  But in a fiction, in a dream of passion,
  Could force his soul so to his own conceit
  That from her working all his visage wann'd,
  Tears in his eyes, distraction in's aspect,
  A broken voice, and his whole function suiting
  With forms to his conceit? and all for nothing!
  For Hecuba!
  What's Hecuba to him, or he to Hecuba,
  That he should weep for her? What would he do,
  Had he the motive and the cue for passion
  That I have? He would drown the stage with tears
  And cleave the general ear with horrid speech,
  Make mad the guilty and appal the free,
  Confound the ignorant, and amaze indeed
  The very faculties of eyes and ears. Yet I,
  A dull and muddy-mettled rascal, peak,
  Like John-a-dreams, unpregnant of my cause,
  And can say nothing; no, not for a king,
  Upon whose property and most dear life
  A damn'd defeat was made. Am I a coward?
  Who calls me villain? breaks my pate across?
  Plucks off my beard, and blows it in my face?
  Tweaks me by the nose? gives me the lie i' the throat,
  As deep as to the lungs? who does me this?
  Ha!
  'Swounds, I should take it: for it cannot be
  But I am pigeon-liver'd and lack gall
  To make oppression bitter, or ere this
  I should have fatted all the region kites
  With this slave's offal: bloody, bawdy villain!
  Remorseless, treacherous, lecherous, kindless villain!
  O, vengeance!
  Why, what an ass am I! This is most brave,
  That I, the son of a dear father murder'd,
  Prompted to my revenge by heaven and hell,
  Must, like a whore, unpack my heart with words,
  And fall a-cursing, like a very drab,
  A scullion!





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