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もうひとつのじゃじゃ馬馴らし She will be tamed so:シェイクスピアの喜劇「じゃじゃ馬馴らし」


「じゃじゃ馬馴らし」の中にはメイン・プロットとしてのペトルーチオとカタリーナの物語と平行して、サブ・プロットとして妹のビアンカをめぐる恋の駆け引きが繰り広げられる。

これはこれで面白い展開になっている。ビアンカは姉のカタリーナと違って、おとなしくまた従順そうで美貌も申し分なく、そのうえ父親からの莫大な持参金を期待できるとあって、多くの求婚者をひきつける。だが父親は当時の社会的慣習に従って、姉が嫁ぐまでは妹を嫁がせぬと宣言する。

こうした状況にペトルーチオが現れ、カタリーナを嫁にする。自由な立場になったビアンカは誰とでも結婚できるようになった。

そこで三人の求婚者がビアンカを自分のものにしようと、様々な形で求婚合戦を繰り広げるというわけである。

最後に勝ち残ったのはルーセンシオだ。彼は従者のトラーニオと役柄を変え、トラーニオを自分に、自分は家庭教師ということに偽って、ビアンカの父親をだましたうえでビアンカに近づき、自分に扮したトラーニオと結託しながら両面から求婚を成功させようと企む。

途中ルーセンシオの偽者の父親が現れたり、そこに本物の父親がやってきたり、事態は複雑に入りこむが、ルーセンシオはビアンカその人の心を射止めることによって、結婚に成功する。彼が最初ビアンカに近づいた理由は明らかにはわからないが、最後は金ではなく愛によってビアンカと結ばれたということになっている。

ところがここで思いもかけぬ状況が発生する。姉とは違って貞淑な女性と思われていたビアンカが実は夫の命令に従わぬ不逞の妻だということがわかったのだ。劇の最後近くの場面でカタリーナが夫に対する妻の従順を説くのは、そんなビアンカに対してなのである。

この劇のフィナーレはだから、皮肉たっぷりだ。一方ではじゃじゃ馬をうまく調教して、おとなしくなった妻と一緒に意気揚々とベッドに行くペトルーチオがいる。そのペトルーチオにホーテンシオが激励の言葉を投げかける。他方妻が実はじゃじゃ馬だったと思い知らされたルーセンシオはこれからペトルーチオに倣ってじゃじゃ馬の調教を始めねばならぬと決心するのである。

  ホーテンシオ:うまくやれよ みごとにじゃじゃ馬を手なずけたからには
  ルーセンシオ:全くだ 俺も女房を手なずけねばならん(第五幕第二場)
  HORTENSIO:Now, go thy ways; thou hast tamed a curst shrew.
  LUCENTIO:'Tis a wonder, by your leave, she will be tamed so.

上の一対の言葉は劇の最後にあるもので、カップレット Couplet の形式をとっている。カップレットというのは二行一組で同じ韻を踏んだものだ。それを前提にこのカップレットを読むと、Shrewの発音が現代とは違っていたことがわかる。シェイクスピアの時代には「シュルー」ではなく「シュロー」と発音されていたわけだ。



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