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道化の歌 Come away, death :シェイクスピアの喜劇「十二夜」


「十二夜」は、「お気に召すまま」と並んで、歌を非常に有効に使っている。「お気に召すまま」ほど多くはないが、節目節目で小歌をさしはさみ、劇にメリハリをつけている。その歌を歌うのは、ほとんどの場合、道化のフェステだ。彼は単なる道化でなく、魅力的な歌手でもある。
最初の歌は第二幕第三場で歌われる。トビーとその仲間たちがどんちゃん騒ぎの中で、フェステに一曲、それも恋の歌を歌ってくれとせがまれて、フェステが歌う。

    いとしい人 どこへいきなさる
    ここにいて 恋人を待ってなさい
    ふたりで歌を歌いましょう
    だからいかないで いとしい人
    出合った所で旅はおわる
    だれもが知ってることですよ

    愛とは 未来のことじゃない
    今のこの時間に楽しむもの
    未来なんて不確かなもの
    待ってても何も起こらない
    だからいまキスしあおう
    青春はいつまでも続かない(2幕3場)
  Clown  [Sings]
    O mistress mine, where are you roaming?
    O, stay and hear; your true love's coming,
    That can sing both high and low:
    Trip no further, pretty sweeting;
    Journeys end in lovers meeting,
    Every wise man's son doth know.

    What is love? 'tis not hereafter;
    Present mirth hath present laughter;
    What's to come is still unsure:
    In delay there lies no plenty;
    Then come kiss me, sweet and twenty,
    Youth's a stuff will not endure.

実はこの歌はもともと、ヴァイオラに歌わせるためにつくったという解釈もある。その解釈に立てば、これはかなわぬ自分の片恋を嘆いた歌だとも受け取れる。だが実際にはこのとおり、トビーらのカーニヴァル的などんちゃん騒ぎに色を添えるために、道化のフェステが歌うという設定に落ち着いたわけである。

「十二夜」のなかの歌のうち、もっとも有名なのは、第二幕大四場でフェステが歌うものだ。

    やって来い やって来い 死よ
    わが身を杉の棺に横たえよ
    飛び去れ 飛び去れ 息よ
    無慈悲な乙女に殺されたおいら
    白い経帷子をイチイの枝で
    包み込んでくれ
    おいらだって死んだからには
    そうしてもらいたいんだ

    どんな花も 一輪の花でさえも
    おいらの黒い棺に投げないでほしい
    友達の誰一人わたしの遺体を見ないでほしい
    おいらの骨が投げられる所で
    ため息なんぞをつかないでほしい
    墓の中で横たわったおいらを
    彼女が見ることはないだろう
    そして泣くこともないだろう(2幕4場)
  Clown
    Come away, come away, death,
    And in sad cypress let me be laid;
    Fly away, fly away breath;
    I am slain by a fair cruel maid.
    My shroud of white, stuck all with yew,
    O, prepare it!
    My part of death, no one so true
    Did share it.

    Not a flower, not a flower sweet
    On my black coffin let there be strown;
    Not a friend, not a friend greet
    My poor corpse, where my bones shall be thrown:
    A thousand thousand sighs to save,
    Lay me, O, where
    Sad true lover never find my grave,
    To weep there!

この歌は、公爵の求めに応じて歌うことになっている。フェステは公爵の片思いと、それに答えてやらないオリヴィアの無慈悲さをよく知っていたので、このように歌ったのである。

劇の終幕もまた、歌で飾られている。歌うのはやはりフェステだ。

    おいらがほんの小僧だったころ
    ヘイ ホー 風吹き雨が降る
    いたずらも多めに見てもらえた
    雨は毎日降るものさ

    おいらが大人になったとき
    ヘイ ホー 風吹き雨が降る
    与太郎は締め出しをくらった
    雨は毎日降るものさ

    おいらが嫁さんをもらったとき
    ヘイ ホー 風吹き雨が降る
    ほらをふいてちゃ食ってはいけぬ
    雨は毎日降るものさ

    おいらが寝たきりになったとき
    ヘイ ホー 風吹き雨が降る
    まだ二日酔いのままでいたもんだ
    雨は毎日降るものさ

    この世は大昔に作られたとさ
    ヘイ ホー 風吹き雨が降る
    でもこのへんで芝居はおしまい
    雨は毎日降るものさ (5幕1場)
  Clown  [Sings]
    When that I was and a little tiny boy,
    With hey, ho, the wind and the rain,
    A foolish thing was but a toy,
    For the rain it raineth every day.

    But when I came to man's estate,
    With hey, ho,.the wind and the rain
    'Gainst knaves and thieves men shut their gate,
    For the rain it raineth every day.

    But when I came, alas! to wive,
    With hey, ho, the wind and the rain.
    By swaggering could I never thrive,
    For the rain it raineth every day.

    But when I came unto my beds,
    With hey, ho the wind and the rain,.
    With toss-pots still had drunken heads,
    For the rain it raineth every day.

    A great while ago the world begun,
    With hey, ho, the wind and the rain
    But that's all one, our play is done,
    And we'll strive to please you every day.

この歌は、ほかの登場人物がすべて引き揚げた後、一人になったフェステが観客に向かって歌う。



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