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女たちの呪い:シェイクスピアの歴史劇
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シェイクスピアの王権劇においては、女たちは常に嘆き悲しみ、怒り狂っている。暴力が支配する世界にあって、愛するものを理不尽に奪われるのは、いつも女たちなのだ。 リチャード三世においては、そんな女たちの嘆きが凝縮された形で表現される。先王ヘンリー六世の后マーガレット、エドワード四世の后エリザベス、そしてエドワード王、クラレンス、リチャード三世の母であるヨーク公爵夫人、この三人の女が、一同に会して、次々と嘆きの言葉を交わす。それはまさに怨念のコーラスといった観を呈している。 彼女らの愛するものを殺したのは、すべてリチャードの仕業である。この共通の仇に対して、敵同士であったはずのマーガレットとエリザベスは、不思議な共感を抱きあうにいたる。 それに対して、ヨーク公爵夫人にとっては、リチャードは自分の息子である。その息子が、同じ自分の息子であり、リチャードにとっては兄たちにあたる人を殺した。だから彼女の嘆きは、屈折したものにならざるを得ない。 マーガレット:わたしにはエドワードがいたが リチャードに殺された わたしにはハリーがいたが リチャードに殺された そなたにもエドワードがいたが リチャードに殺された もう一人のリチャードも リチャードに殺された ヨーク公爵夫人:別のリチャードは そなたに殺された ラトランドも そなたのために殺された マーガレット:そなたにはクラレンスもいたが リチャードに殺された ヨーク公爵夫人:おお ハリーの后よ わたしを苦しめないでおくれ わたしはそなたのために泣いたこともあるのだ QUEEN MARGARET: I had an Edward, till a Richard kill'd him; I had a Harry, till a Richard kill'd him: Thou hadst an Edward, till a Richard kill'd him; Thou hadst a Richard, till a Richard killed him; DUCHESS OF YORK: I had a Richard too, and thou didst kill him; I had a Rutland too, thou holp'st to kill him. QUEEN MARGARET: Thou hadst a Clarence too, and Richard kill'd him. DUCHESS OF YORK: O Harry's wife, triumph not in my woes! God witness with me, I have wept for thine. マーガレットとエリザベスの嘆きは、怒りを通り越して呪いにまで高まる。その呪いが激越な言葉となって、ほとばしり出る。それはいずれ訪れるであろうリチャードの没落を予言しているかのようだ。 マーガレット:大地が口を広げ 地獄が燃え 悪魔が叫び 聖者が祈り リチャードをこの世から消し去ろうとしている 神よ あいつの息の根を止めて 私を安心させて欲しい 犬は死んだのだと! エリザベス:あなたはいつか予言されたことがあった わたしにも あなたの力を借りてリチャードを呪うときがくるだろうと あの畸形の怪物 背虫のガマガエルを! QUEEN MARGARET: Earth gapes, hell burns, fiends roar, saints pray. To have him suddenly convey'd away. Cancel his bond of life, dear God, I prey, That I may live to say, The dog is dead! QUEEN ELIZABETH: O, thou didst prophesy the time would come That I should wish for thee to help me curse That bottled spider, that foul bunch-back'd toad! |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2009 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |