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ロンドン塔へお連れしろ :シェイクスピアの歴史劇「リチャード二世」


リチャード二世は力で王位を奪われたが、すぐに殺されることはなかった。奪ったボリングブルックは、むき出しの暴力によって王位についたという印象を、自分の身から払わねばならない。そのためには、リチャードの意思に基づいて譲位されたのだという見せ掛けを作らねばならない。それが実現するまでは、王であったものを殺すわけにはいかないのだ。

こうして譲位の茶番劇が演出される。いまやモック・キングとなったリチャードが、猿回しのサルのように、衆目の前にひきたてられる。そこでリチャードは、自分の意思によって王冠をボリングブルックに引き渡すのだと、人々に納得させる場面を、演じさせられる。

  リチャード; さあ 王冠をつかむのだ さあ
   こちら側をわしが持ち そちら側をそなたが持つのだ
   この黄金の王冠が いまや深い井戸のように見える
   ただそれは二つのバケツの中を行ったりきたりしている水のようなものだ
   カラになったほうのバケツは空中に舞い上がる
   水をたたえたほうのバケツは下に落ちていく
   それはわし自身であり わしの涙がバケツを満たしている
   わしは悲しみを飲み そなたは高く舞い上がるのだ
  Richard; Give me the cown.
   Here, cousin - seize the crown.  Here, cousin -
   On this side, my hand; and on that side, thine.
   Now is this golden crown like a deep well
   That owes two buckets; filling one another,
   The emptier ever dancing in the air;
   The other down, unseen, and full of water.
   That bucket down and full of tears am I,
   Drinking my griefs whilst you mount up on high

この部分は、この劇のハイライトをなしている。リチャードは王冠を渡されると、それをすばやく取り上げられる。そして奪われた無念さを語ろうとすると、それを妨げられる。リチャードは悔しさのあまりに叫ぶ。これ以上何を求めようと言うのかと。

すると、自分の罪状を書き付けた紙を渡され、それを読み上げるように促される。リチャードにはもはや逆らうことはできない。彼は目を涙で曇らせながら自分の罪状を読み上げる。

それがすんでしまえば、王位の譲渡劇はおしまいだ。役目を終えた役者には、もう用はない。リチャードは舞台のみならず、この世そのものからの退場を迫られるのである。

  リチャード;それでは行かせてくれ
  ボリングブルック;どこへ
  リチャード;どこへなりと そなたが見えぬところへ
  ボリングブルック;では誰か この男をロンドン塔へお連れしろ
  リチャード;おお そなたら皆でわしをこの世から連れ去るのだな
   真の王が没落するや すかさず取って代わろうというのだな
  ボリングブルック;次の水曜日に 戴冠式を厳かに執り行う
   おのおの方 準備に怠りなきように
  Richard; Then give me leave to go.
  Bolingbroke; Whither?
  Richard; Whither you will; so I were from your sights.
  Bolingbroke; Go some of you; convey him to the Tower.
  Richard; O, good, 'convey' - Conveyers are you all,
   That rise thus nimbly by a true king's fall.
  Bolingbroke; On Wednesday next we solemnly proclaim
   Our coronation, Lords, be ready, all.



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