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息子とは何なのだ Sons, what things you are!


ヘンリー四世の第一部と第二部を通じての主要なテーマとして、ヘンリー王子の人間としての成長がある。王子は当然王となるべき身であるから、立派な王になるための遍歴の過程を描いた、道徳劇としての色彩を帯びている。

だがこの劇は単純な道徳劇ではない。王子の成長は直線的ではなく、ジグザグな過程をたどるばかりか、およそ王であることとは正反対の、無秩序やら混沌に取り巻かれてもいる。その無秩序はフォールスタッフによって代表され、王子はフォールスタッフとともに行動することによって、自分自らが無秩序の化身であることを表明する。

そんな王子を当然、国王である父親は理解できない。ヘンリー四世は死ぬまで息子を理解できないばかりか、死の床においてまで、息子にひどい仕打ちを受けたと思い込む。

死の床でこんこんと眠る父親の姿をみて、てっきり死んでしまったと勘違いした王子は、ベッドの傍らに置いてあった黄金の王冠を目にする。ここで王子は死んでいるはずの父親のために嘆き悲しむよりも、王冠を手にとってそれを自分の頭に戴きたいという欲望にとらわれる。ある意味で残酷だが、王冠は親子の情愛をも狂わすほど、魅力あるものなのだ。

目が覚めて、息子が王冠を持ち去ったことに気づいたヘンリー四世は深い悲しみにとらわれる。神の摂理に反してまで手に入れた王冠を、そのまま穏やかに息子に渡したいと思っていたのに、その息子ときては、父親の苦労をわかろうとせずに、ガツガツと王冠を手に入れようとする。

自分個人の身の上の不幸が、世の中の父親一般に通じる不幸として、ヘンリー四世に迫ってくる。世の中の父親が息子のために骨身を削って獲得しようとしたものは、息子にとっては、当たり前のことでしかないのだ、当たり前ばかりか、父親が自分の意に沿って与えてくれなければ、父親を殺してまで奪おうとするものなのだ。

いったい父親とは何のために生きているのか、その父親にとって息子とはいったい何なのだ。

  ヘンリー四世;息子とはいったい何なのだ
   黄金が目の前にぶら下がっていると
   父親に反抗してまでそれを手に入れようとする
   こんな目にあうためなのだ 愚かで子煩悩な父親たちが
   眠らずに思慮を回らし 息子のために心を砕き
   骨身を削ってあれこれと世話を焼くのは
   こんな目にあうためなのだ 父親たちがせっせと
   時には不正な方法を用いて金をかき集めるのは
   こんな目にあうためなのだ 父親たちが息子を教育して
   学問や戦の経験を積ませるのは
   ミツバチが花の間を飛び回って
   蜜を集め
   足を蝋にまみれさせ 口に蜜をいっぱい含んで
   巣に戻ってくるや その報いは殺されること
   その蜂と同じように 父親たちもせっせと集めた黄金の見返りに
   苦い思いをさせられるだけなのだ(第四幕第五場)
  Henry W;See, sons, what things you are!
   How quickly nature falls into revolt
   When gold becomes her object!
   For this the foolish over-careful fathers
   Have broke their sleep with thoughts, their brains with care,
   Their bones with industry;
   For this they have engrossed and piled up
   The canker'd heaps of strange-achieved gold;
   For this they have been thoughtful to invest
   Their sons with arts and martial exercises:
   When, like the bee, culling from every flower
   The virtuous sweets,
   Our thighs pack'd with wax, our mouths with honey,
   We bring it to the hive, and, like the bees,
   Are murdered for our pains. This bitter taste
   Yield his engrossments to the ending father.

父親の怒りに接して、王子はあれこれと言い訳をする。だがその言い訳は、王たる父親に対してと同様、観客にも空しく響く。なぜなら観客は、王子が父親の安否よりも王冠のほうに心を奪われていたことをよく知っているからだ。





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