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冬物語(Winter's Tale):シェイクスピアのロマンス劇


冬物語(Winter's Tale)は、シェイクスピアの作品の中でも極めてユニークなものだ。陰惨な悲劇と祝祭的な喜劇が、16年と云う歳月を間に挟んで、隣り合わせに展開する。悲劇と喜劇の両方の特徴を包み込み、しかもどちらともいえない。そこがこの劇をロマンス劇に分類させた要因だろう。

劇の前半では、観客は主人公の惑乱によって家族が解体していくさまを見せられる。後半ではその家族が再び結び合わされ、幾組かの結婚が成立する。何故そうなるかは、常識を以てしてはわからないだろう。おとぎ話だけがもちうる不思議な必然性がそのことを可能にさせる。この劇はある意味で、おとぎ話でもあるのだ。

物語の発端はシチリア王レオンティーズの嫉妬だ。彼は妻のハーマイオニーが友人のボヘミア王ポリクシニーズと不倫をしているのではないかと疑い、すさまじい嫉妬に駆られる。そこで腹心のカミーロに命じてポリクシニーズを暗殺しようとする。だがカミーロはそれをポリクシニーズに明かして、ともにボヘミアに逃れ去る。

レオンティーズはハーマイオニーを幽閉する。そのことを知った王子マミリアスは嘆き悲しんで死んでしまう。やがてハーマイオニーは女の子を産むが、レオンティーズはその子が自分の子だと認めない。腹心のアンティゴナスに殺してしまえと命令する。アンティゴナスはその子をパーディタと名付け、ボヘミアの海岸に捨て去るが、自分自身はクマに襲われて食われてしまう。

レオンティーズは家臣にアポロンの神託を聞かせにやらすが、それらの者の持ち帰った信託には、ハーマーオニーは無実であり、貞淑であるとあった。しかし嫉妬に駆られたレオンティーズはアポロンの神託さえ受け入れない。絶望したハーマイオニーはついに死んでしまう(侍女のポリーナによって死んだと宣言される)。

こうしてレオンティーズは、自分自身の誤解によって家族のすべてを失ったことに気づき、愕然とする。彼は己自身を呪い、妻をはじめ不幸な家族の運命を嘆き暮らすようになる。

ここまでが前半である。全編が悲劇的な色彩に包まれ、出来事が息づまるように展開する。アポロンの神託が持ち出されるところも、悲劇に相応しい演出だ。

第4幕の冒頭で、時のコーラスが登場する。コーラスは劇の前半と後半をつなぐための演出だ。コーラスは次のように言う。

  コーラス:わたくし すなわち時のすばしこさが
   16年をあっという間に飛び越えて
   その間に起こったさまざまなことをはしょったからといって
   どうか叱らないでください
   私の力を以てすれば
   法律を無効にしたり 
   慣習を植え付けるやいなやひっくり返すのも朝飯前
  Time: Impute it not a crime
   To me or my swift passage, that I slide
   O'er sixteen years and leave the growth untried
   Of that wide gap, since it is in my power
   To o'erthrow law and in one self-born hour
   To plant and o'erwhelm custom.(4.1)

コーラスは観客に向かって、どうか16年の歳月が流れて、これからは新しい話が始まるのだと、自分に言い聞かせてほしいというわけだ。前半が厳しい冬の物語だったとすれば、これから始まる話は春の物語だ。その物語の中で、ボヘミアの海岸に捨てられた女の赤ちゃんはうら若い乙女に成長し、ボヘミアの王子フロリゼルと恋の試練を乗り越えるだろう。でも、どうか先を急がないで欲しい。

  コーラス:パーディタのことについては
   驚くほどうつくしい乙女に成長しましたが
   いまは詳しくふれるのは慎みましょう
   やがて時の歩みがそのことを物語るでしょうから
   羊飼いの娘となった彼女に
   何が起こるかは まさに
   時の主題なのです
  Time:To speak of Perdita, now grown in grace
   Equal with wondering: what of her ensues
   I list not prophecy; but let Time's news
   Be known when 'tis brought forth.
   A shepherd's daughter,
   And what to her adheres, which follows after,
   Is the argument of Time.(4.1)

こうして後半では、パーディタとフロリゼルの愛の周囲に様々な出来事が連なっていく。二人の愛は最後には、レオンティーズとポリクシニーズを和解させ、死んだはずのハーマイオニーを生き返らせる。ここに命は春を謳歌するのだ。

最後のシーンでは、パーティダとフロリゼル、ポリーナとカミーロがめでたく結ばれ、死別したはずだったハーマイオニーとレオンティーズは新たな絆を取り戻す。つまり三組の結婚が成立する。そんなところから、この劇は、当初は喜劇として分類されたのだ。





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