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ポローニアスの監視:政治劇としてのハムレット


ハムレットを政治劇として捕らえなおしたのはヤン・コットだ。彼によれば、舞台であるエルシノアは恐怖に蝕まれている。みなが疑心暗鬼なのだ。王はハムレットによる復讐を恐れて、たえずハムレットを監視している。監視されているハムレットは愛するオフェリアに真実の言葉をかけられないでいる。だからほかの人間の耳を意識して、オフェリアに残酷な言葉を浴びせかける。
この劇では、見張る、つまり監視するということが眼目になっている。その監視役の最たるものがポローニアスだ。彼は自分の息子の動向まで監視せずにおれない。この世のかなでもっとも大事なことは、すべてを監視することなのである。

ポローニアスはこれからフランスに出発する息子のレアティーズに向かって、色々な意見をする。その中には普通の父親らしい意見もある。

  ポローニアス:金は借りてもいかんが貸してもいかん
   貸せば金はもとより友人までも失う
   借りれば倹約する心が鈍るというものだ(第一幕第三場)
  LORD POLONIUS:Neither a borrower nor a lender be;
   For loan oft loses both itself and friend,
   And borrowing dulls the edge of husbandry.

こういってポローニアスはレアティーズをフランスに送り出すが、息子を心から信じてやることができない。それで彼は息子の動向を部下にこまかく監視させて、何かが起きたらすぐに、それを矯正してやるつもりなのだ。

ポローニアスは娘のオフェリアの動向も気になる。オフェリアはハムレットを愛している。だがハムレットは危険人物だ。そんな男に娘をくれてやるのは、危険の種を自ら抱えることに他ならない。

  ポローニアス:いいか教えてやろう 自分を赤ん坊と思え
   赤ん坊は甘いものなら何でも喜ぶが それが自分にとってよいとは限らない
   だから用心するに越したことはないのだ
   男のおべんちゃらな言葉に酔いしれていると
   そのうち阿呆の子を生まされるハメになるんだぞ(第一幕第三場)
  LORD POLONIUS:Marry, I'll teach you: think yourself a baby;
   That you have ta'en these tenders for true pay,
   Which are not sterling. Tender yourself more dearly;
   Or--not to crack the wind of the poor phrase,
   Running it thus--you'll tender me a fool.

そんなポローニアスをハムレットは心から軽蔑する。この男は自分の身の安泰のためならば、どんなへつらいでも意に介しないでやってのけるのだから。

  ハムレット:あの雲は ラクダのような形をしているとは思わぬか?
  ポローニアス:たしかにラクダのような形をしておりまする
  ハムレット:俺にはイタチのように見えるが
  ポローニアス:イタチの背中のように見えまする
  ハムレット:鯨のようにも見えるぞ
  ポローニアス:たしかに鯨に見えまする(第三幕第二場)
  HAMLET:Do you see yonder cloud that's almost in shape of a camel?
  LORD POLONIUS:By the mass, and 'tis like a camel, indeed.
  HAMLET:Methinks it is like a weasel.
  LORD POLONIUS:It is backed like a weasel.
  HAMLET:Or like a whale?
  LORD POLONIUS:Very like a whale.

ポローニアスとの別の会話の中で、ハムレットはポローニアスが学生演劇でジュリアス・シーザーを演じたことがあると答えたのに対して、次のように言う。「こんな途方もない阿呆を刺すのでは、さぞブルータスの手も鈍ったことだろう」

ハムレットにとっては、ポローニアスは愛するオフェリアの父親ではあるが、それ以前に鼻持ちのならない俗物なのである。

そのポローニアスをハムレットは誤って刺し殺してしまうのだが、それはあるいは必然の出来事だったかもしれない。

ハムレットが母親のガートルードと会話をしている最中、ポローニアスは物陰で立ち聞きしていた。それをハムレットはクローディアスと勘違いして刺し殺してしまう。ポローニアスを殺したあとでハムレットは後悔し、涙を流すが、それは自分の過ちを悔いる涙というより、殺さざるを得ない運命に屈したことへの、無念の涙だったととらえることもできる。





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