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甘い道化と苦い道化:シェイクスピアの戯曲「トロイラスとクレシダ」 |
「トロイラスとクレシダ」という劇には二人の道化が登場する。トロイ方のパンダロスとギリシャ方のテルシテスだ。彼らについてヤン・コットは、パンダロスを甘い道化、テルシテスを苦い道化と呼んでいる。 パンダロスはクレシダの叔父で、クレシダとトロイラスを引き合わせる役をする。彼は仲人という役柄を割り当てられているわけだ。仲人の務めとはお互いに相手にとって相応しいもの同士を結びつけることだ、だが時にはふさわしくないカップルを成立させることもある、こんな場合には仲人は女衒になりさがる。 この芝居では、クレシダとトロイラスの結びつきは不安定なものに終わり、トロイラスはほかの男のもとに去ってしまうことになっているから、パンダロスはどちらかというと、女衒の役割に甘んじることとなる。それでも彼は自分の仕事に誇りを見出し、次のように叫ぶのだ。 パンダロス:わしは苦労しながらお二人を結びつけたわけだから 世の中のすべての仲人の手本じゃ これからは仲人のことをパンダーといってもらいたい PANDARUS:since I have taken such pains to bring you together, let all pitiful goers-between be called to the world's end after my name; call them all Pandars; let all constant men be Troiluses, all false women Cressids, and all brokers-between Pandars! say, amen.(3,2) パンダロスの導きでクレシダはトロイラスとの間で官能の一夜を過ごす。その次の朝、パンダロスはクレシダに向かって、次のような言葉をかけてからかう。 パンダロス:どれどれ 処女膜はどうした 娘さん わしの姪のクレシダはどこへいった? クレシダ:そんな風におっしゃらないで 意地悪なおじさま ひとをそそのかしておいて そんなふうにからかうんだから PANDARUS:How now, how now! how go maidenheads? Here, you maid! where's my cousin Cressid? CRESSIDA:Go hang yourself, you naughty mocking uncle! You bring me to do, and then you flout me too.(4,2) パンダロスの役割はこんな風に単純なものだ。それなのに彼の登場する場面は非常に多い。劇を締めくくる最後の言葉もパンダロスが発する。その言葉はあまり気の利いたものではないが、この劇が恋愛劇としては悲劇的で、運命劇としては喜劇的であることを強調している。 パンダロスに比べると、テルシテスの方は賢者らしさを一層とよく感じさせる。彼が節々に吐く言葉は、あらゆる幻から自由な、知恵のある言葉だ。 彼の目には、ギリシャ人が正義のためにトロイと戦っていると思うのはただの幻に過ぎないことがよく見える。 テルシテス:その次にゃ 部隊全体が叩き潰されるがいい それよりむしろカサヤミにでもとりつかれろ 女のケツを追い掛け回しているようなやからは THERSITES :After this, the vengeance on the whole camp! or rather, the bone-ache! for that, methinks, is the curse dependent on those that war for a placket. (2,3) ギリシャもトロイもヘレンという雌犬のために、それこそ犬死と同じ死に方をしていると、彼の眼には見えるのだ。 この舞台で展開されている戦争の陰には女がいる。ギリシャ人もトロイ人もセックスの快楽の犬に成り下がっている、そう彼はいう。 こうしてこの劇のハイライトともいえる有名な言葉を、テルシテスは吐くようになるのだ。 テルシテス:淫乱だ淫乱だ 戦争に淫乱だ ほかのことは話題にもならん どいつもこいつも熱病に焼かれちまえ(5幕2場) THERSITES:Would I could meet that rogue Diomed! I would croak like a raven; I would bode, I would bode. Patroclus will give me any thing for the intelligence of this whore: the parrot will not do more for an almond than he for a commodious drab. Lechery, lechery; still, wars and lechery; nothing else holds fashion: a burning devil take them!(5,2) |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2010 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |