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フォールスタッフの受難:シェイクスピアの喜劇「ウィンザーの陽気な女房たち」 |
フォールスタッフへの復讐を誓った女房たちは、色目を使うと見せかけてフォールスタッフをフォードの家におびき寄せ、そこで一計を案じてひどい目にあわせようとする。茶番劇を演じて、フォールスタッフを洗濯物の籠に中に入り込ませ、それを召使に運ばせて、テムズ川に放り込もうというのだ。 フォード婦人:ページさん うまくきっかけを作ってくださいね ページ婦人:わかってますわ うまくいかなかったら責めてもいいわ フォード婦人:さあとりかかりましょう このぶくぶくの水ぶくれ男 太鼓腹の土手カボチャに 淑女とあばずれ女の違いを 教えてやりましょう(第三幕第三場) Mistress Ford:Mistress Page, remember you your cue. Mistress Page:I warrant thee; if I do not act it, hiss me. Mistress Ford:Go to, then: we'll use this unwholesome humidity, this gross watery pumpion; we'll teach him to know turtles from jays. そうとは知らぬフォールスタッフは、浮き浮きしながらフォードの家にやってくる。ところが愛をささやくいとまもなく、ページの女房がやってきて、フォードの亭主が戻ってくるとうそをつく。大慌てしたフォールスタッフは、女房たちのたくらみどおり洗濯物を突っ込んだ籠の中にすっぽりもぐり込むのだ。 そこへ実際にフォードの亭主が戻ってくる。しかも連れを伴って。亭主は妻が自分のいない間に男を家に連れ込むつもりだと、ほかならぬフォールスタッフ自身から聞いていたのだ。変装した姿で事前にフォールスタッフを訪れ、そのたくらみを何もかも聞いていたというわけである。 これは女房たちにも意外な展開であったが、当のフォードは嫉妬で怒り狂っている。彼にとって女房に間男されることは、何にも増して耐え難い屈辱なのだ。 フォード:さあこちらへ わたしの疑いに理由がなかったら わたしをさんざん笑いものにして結構です おい こいつをどこに持っていくんだ 給仕:洗濯屋にでさあ フォード夫人:なによ どこに持っていこうといいでしょ まったくあなたときたら 洗濯のことまでおせっかいするんだから フォード:洗濯だって! おれも石鹸をつけて洗いたい気分だ FORD:Pray you, come near: if I suspect without cause, why then make sport at me; then let me be your jest; I deserve it. How now! whither bear you this? Servant:To the laundress, forsooth. MISTRESS FORD:Why, what have you to do whither they bear it? You were best meddle with buck-washing. FORD:Buck! I would I could wash myself of the buck! Buck, buck, buck! Ay, buck; I warrant you, buck; and of the season too, it shall appear. フォードは家中を探しまわして、男を見つけ出そうとする。連れの連中はそんなフォードを冷笑するが、熱くなったフォードには他人の言葉が耳に入らない。給仕たちが籠を担いで出て行こうとする不自然さも、まともに判断できない。 そんなわけでフォードの目をかいくぐった籠は、無事テムズ川まで運ばれ、ざぶんと放り込まれてしまうのである。 ページ夫人:あなたのご主人が籠をどこに持っていくんだと訪ねた時 あの男はどんな気持ちだったでしょうね? フォード夫人:あの男には洗ってもらう必要があったのよ だから川に投げ込まれたのは ちょうど都合がよかったのよ ページ夫人:まったくどうしようもないゴロツキ ああいう連中はみな同じような目にあうといいんだわ フォード夫人:でもうちの主人は何故 フォールスタッフがここにいると分ったんでしょう あの人があんなに焼餅をやくのは始めてみたわ ページ夫人:わたしがそのわけを調べてあげましょう フォールスタッフには もっとひどい目にあわせてやりましょうよ あの男の助平根性は これくらいのことじゃなおらないわ MISTRESS PAGE:What a taking was he in when your husband asked who was in the basket! MISTRESS FORD:I am half afraid he will have need of washing; so throwing him into the water will do him a benefit. MISTRESS PAGE:Hang him, dishonest rascal! I would all of the same strain were in the same distress. MISTRESS FORD:I think my husband hath some special suspicion of Falstaff's being here; for I never saw him so gross in his jealousy till now. MISTRESS PAGE:I will lay a plot to try that; and we will yet have more tricks with Falstaff: his dissolute disease will scarce obey this medicine. 思惑通りにフォールスタッフをひどい目にあわせた女房たちは、まずは溜飲を下げることができた。だがそれでもまだ懲らしめたりない。第一フォールスタッフはこれくらいのことでへこたれる輩ではない、そのことを彼女らも知っているのだ。 |
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