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怨念の呪い:リチャード三世


リチャード三世に登場する女性たちのほとんどは、リチャードによって運命を翻弄され、常にリチャードの影におびえている。そんな中で、先王ヘンリー六世の皇后マーガレットのみは、自分の運命を受け入れることを拒絶し、リチャードに正面から立ち向かう。リチャードにとっては唯一、扱いにくいネメシズなのだ。

マーガレットの有名な呪いの言葉は、第一幕第三場で吐かれる。まず、マーガレットはエドワード四世の皇后であるエリザベスに対して、自分たちランカスターの一族が、ヨークの一族によって殺されたことへの恨みをぶつける。

  マーガレット:呪いが雲を突き破って天国に届くだろうか?
   さあ雲よ 我が呪いのために道を開けておくれ!
   そなたたちの王は 戦争でなければ飽食によって死ぬがよい
   我等が王は殺されたのだ そなたたちのを王にするために
   また そなたのエドワードを皇太子にさせるために
   皇太子であった我がエドワードは殺されたのだ
   そなたのエドワードも若さの盛りに犬死するがよい!
  QUEEN MARGARET:
   Can curses pierce the clouds and enter heaven?
   Why, then, give way, dull clouds, to my quick curses!
   If not by war, by surfeit die your king,
   As ours by murder, to make him a king!
   Edward thy son, which now is Prince of Wales,
   For Edward my son, which was Prince of Wales,
   Die in his youth by like untimely violence!

マーガレットはこの殺戮の張本人がリチャードでありことを知っている。そこでリチャードに面と向かって、罵倒とのろいの言葉を浴びせかける。

  マーガレット:どんな眠りもお前のおぞましい目を閉じさせることはない
   お前が目を閉じるのは 恐ろしい夢のなかに醜悪な悪魔たちが現れ
   お前を責めさいなむときだけだ
   いやらしい顔つき 生まれそこない のろまの豚め!
   お前の中には生まれつき
   奴隷根性と地獄の匂いが染み付いている!
   お前はお前の母親にとっては汚辱の種!
   お前の父親にとってはいまいましいできそこない!
   恥知らず! 嫌われ者!
  QUEEN MARGARET: 
   No sleep close up that deadly eye of thine,
   Unless it be whilst some tormenting dream
   Affrights thee with a hell of ugly devils!
   Thou elvish-mark'd, abortive, rooting hog!
   Thou that wast seal'd in thy nativity
   The slave of nature and the son of hell!
   Thou slander of thy mother's heavy womb!
   Thou loathed issue of thy father's loins!
   Thou rag of honour! thou detested--
 
劇の中では、リチャードはこの呪いを受けてなすすべもなく、聞かされている形だ。女の呪いが、どんな暴力にも屈しない強烈なものだということを、観客に印象づけているようだ。

ついでマーガレットは、そのリチャードによって、エリザベスの家族も殺されるに違いないと、予言する。そのときには今マーガレットが発している呪いの言葉を、エリザベス自らも発するようになるだろうと。

  マーガレット:いつかそなたにも この汚らわしい背虫を
   私にも一緒に呪って欲しいと思うときが来る
  QUEEN MARGARET:The day will come that thou shalt wish for me
   To help thee curse this poisonous bunch-backed toad.

しかし、エリザベスはマーガレットのようには、強烈な呪いを発することなく終わる。彼女はただ運命を受け入れて嘆き悲しむだけだ。

シェイクスピアが、マーガレットに体現させた女性のあり方は、リチャードの暴力性を反面から浮き立たせるための、装置のような役割を果たしているといえる。





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