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天の目:リチャード二世


リチャード二世の前に立ちはだかり、彼の王位を簒奪するものはボリングブルック、後のヘンリー四世である。リチャードはボリングブルックの父親ゴーントの財産を没収し、それを財力にしてアイルランドに遠征するが、その最中にボリングブルックがイングランドに舞い戻り、反逆に向けて準備を始める。

ドラマはここまでは、リチャードをネガティブに描き、ボリングブルックを英雄的に描いている。リチャードの没落をわかりやすくさせるための伏線だ

急いでイングランドに引き上げてきたリチャードには、状況を正確に認識することができない。アーマールら側近がボリングブルックの動きを説明し、その野心の侮りがたいことを忠言するが、リチャードはその言葉を正面から受け入れることができない。

もしアーマールのいうことがそのとおりだとしたら、ボリングブルックは不埒な悪党であり、それに対して自分は王として毅然と臨む立場にある、そう考えながらそれを実行できないリチャードは、すでに運命から見放されているのである。

  リチャード;落ち着かぬ奴だな お前にはわからぬのか
   天の鋭い目が地球の裏側に隠れ
   地球の底の世界を照らしている間
   悪党どもが見られないことを幸いに跳梁し
   地上で悪事の限りを尽くしていても
   天の目が再び地球の下から現れて
   東の空を赤々と染め上げ
   あらゆる罪を白日のもとにさらすとき
   殺人者も 反逆も いまわしい犯罪も
   背中から暗黒の羽織を剥ぎ取られて
   震えながら裸の姿をさらすのだ
  King Richard; Discomfortable cousin, knowest thou not
   That when the searching eye of heaven is hid
   Behind the globe, that lights the lower world,
   Then thieves and robbers range abroad unseen
   In murders and in outrage boldly here;
   But when from under this terrestrial ball
   He fires the proud tops of the eastern pines,
   And darts his light through every guilty hole,
   Then murderers, treasons, and detested sins -
   The cloak of night being plucked from off their backs -
   Stand bare and naked, trembling at themselves?

リチャードがいう「天の目」とは、一義的には太陽を意味するが、王としての自分自身のイメージでもある。太陽が地球の裏側に隠れていたとは、王である自分が一時的にイングランドを離れていたことを意味する、また太陽が東の空に現れたとは、自分が再びイングランドに戻ってきたことを意味する。

太陽が悪人たちの悪行を白日のもとにさらすように、自分の登場によって、ボリングブルックは陰謀を暴かれ震え上がるに違いない。こうリチャードは言いたかったのだ。

だが震えるべきはボリングブルックではなく、リチャード自身だった。リチャードは、国民の大多数がボリングブルックの味方につき、自分が裸同然になっていることを、思い知らされるのである。

こうしてフリント城においてボリングブルックと対面したリチャードは、あっさりと王権を譲り渡す。自分の目の前で膝を屈し、とりあえずの礼を尽くしているボリングブルックに向かって、リチャードは次のようにいうのだ。

  King Richard; Up, cousin, up, Your heart is up, I know,
   Thus high at least, although your knee be low.
  Bolingbroke; My gracious lord, I come but for my own.
  King Richard; Your own is yours, and I am yours and all.
  Bolingbroke; So far be mine, my most redoubted lord,
   As my true service shall deserve your love.
  リチャード;立ち上がるがよい そなたが誇り高いことは存じておる
   こうして膝を屈しているが 心は高慢なのだ
  ボリングブルック;陛下、私がやってきたのは自分の用事のためです
  リチャード;わかっておる、わしはそなたのいいなりになろう
  ボリングブルック;ではさように、あなたは偉大な王だ
   わたしもあなたに負けぬくらい偉大な王になりましょう 

リチャード二世は二度王権を剥奪されたとされているが、これは最初の剥奪劇である。リチャードはとりあえず力によって王権をもぎ取られたが、やがて正義に基づく王権の譲渡を迫られることになる。





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