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フォールスタッフの悪党仲間:ヘンリー四世第二部


フォールスタッフは、「ヘンリー四世第一部」においては道化として、ヘンリー王子に付きまとっては、破天荒なことを次々と行い、この世の秩序を嘲笑する役割を果たしていた。ヘンリー王子はそうしたフォールスタッフの行動から、この世を相対化する見方を身につけることによって、単なる秩序の化身としてではなく、世界をトータルに把握する能力を獲得していく。そこが名誉や秩序一点張りのホットスパーとは、著しい対照をなしているのである。

ところが「第二部」になると、フォールスタッフとヘンリー王子との関係は、劇的に変化する。ヘンリー王子はもはや、二六時中フォールスタッフと一緒にいることはない。ヘンリー王子はフォールスタッフとの関わりにおいてではなく、父親であるヘンリー4世との関わりにおいて、より多く描かれる。そうすることでシェイクスピアは、ヘンリー王子の戴冠への地ならしをしているようにも思えるのだ。

ヘンリー王子との関わりを離れたところで描かれえるフォールスタッフはしたがって、道化としてよりは、純粋の悪党としてのイメージを強めていく。

そんなフォールスタッフとともに行動する相棒は、第一部でいたずらの舞台になった酒場のおかみや、そこにいる浮かれ女、悪党仲間のピストルである。そのうえシャローやサイレンスといった新しいキャラクターを登場させることによって、側面から「フォールスタッフとは何者か」という疑問に答えさせている。

第二部において、フォールスタッフはまず例の酒場に現れる。一緒にいるのはおかみのクイックリーと浮かれ女のドロシーである。そこへ家来格のピストルが入ってくる。

  ピストル;ご機嫌よう サー・ジョン
  フォールスタッフ;よく来たな ピストル こっちへ来い
   いっぱい飲ませてやるから おかみに一発ぶっ放してやれ
  ピストル;それじゃぶっ放してやるか 二つ玉でもって
  フォールスタッフ;ピストルの弾じゃだめだぜ そんなんじゃ役に立たぬ
  クイックリーおかみ;なにさ ピストルだの 二つ玉だのいってさ
   あたしゃ優男にしかなびかないよ ただの慰みものじゃないんだから
  ピストル;それじゃドロシー嬢 お前にぶっ放すことにするか
  ドロシー;あたしにぶっ放すだって? いけすかない野郎だね
   この貧相で いやらしくて やくざなコンコンチキ野郎め
   とっとと消えな!あたしをご馳走にするのはお前のご主人だけだよ
  PISTOL;God save you, Sir John!
  FALSTAFF;Welcome, Ancient Pistol. Here, Pistol,
   I charge you with a cup of sack: do you discharge upon mine hostess.
  PISTOL;I will discharge upon her, Sir John, with two bullets.
  FALSTAFF;She is Pistol-proof, sir; you shall hardly offend her.
  MISTRESS QUICKLY;Come, I'll drink no proofs nor no bullets:
   I'll drink no more than will do me good, for no man's pleasure, I.
  PISTOL;Then to you, Mistress Dorothy; I will charge you.
  DOLL TEARSHEET;Charge me! I scorn you, scurvy companion.
   What! you poor, base, rascally, cheating, lack-linen mate!
   Away, you mouldy rogue, away! I am meat for your master.(U.4)

ピストルは拳銃をイメージさせるとともに、男の陽物をイメージしていることは、容易に見て取れるだろう。だから「ぶっ放す」とは、弾丸を発射することであると同時に、精子を発射することをイメージしている。つまり女を攻めるということである。

これに対しておかみもドロシーも、自分たちは簡単に攻略されないよと、反発しているのだ。

このように、フォールスタッフは相変わらず、セクソロジーやスカトロジーとの関連において描かれる。第二部のフォールスタッフはもはやただの道化ではなく、「サー・ジョン」に格上げされているが、その行いは道化以上に支離滅裂になっていく。

シェイクスピアは何故、フォールスタッフをチンピラじみた悪党として描いたのか。そこはむつかしいところだ。第一部での成功に気をよくして、フォールスタッフのいたずら振りを強調することで、第二部をヘンリー王子の戴冠の劇であるとともに、フォールスタッフの祝祭劇であることを強調したかったのかもしれない。





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