HOMEブログ本館英詩と英文学マザーグースブレイク詩集ビートルズ東京を描くフランス文学



老いたるフォールスタッフ:ヘンリー四世第二部


フォールスタッフが登場したのは道化としてであるから、もともと老人あるいはそのひっくり返しとしての幼児としての性格はもっていた。老人も幼児も、一人前の人間としてはみなされず、この世のあるべき姿から逸脱したもの、つまり道化に通じるところをもっているからだ。

ヘンリー四世第二部においては、登場人物の多くが、老人としてあらわれるようになるが、中でもフォールスタッフの場合には、その老人としてのあり方が、グロテスクなものとして押し出されてくる。

フォールスタッフはこの劇の第一幕第二場で登場する。そして登場するやいきなり、自分の老人性をあげつらわれる。それに対してフォールスタッフは、自分は生まれたときから老人だったと答える。つまり自分の存在している意義は道化としてなのであり、道化は必然的に老人のイメージを持っていなければならないからだ、そう主張するのだ。

  法院長;おぬしはまだ若者の名簿に名を連ねているつもりか
   おぬしの顔には老いの徴たる皺が刻まれているというのに
   おぬしの目は霞んでおる 手は干からび 頬は黄ばみ
   髭は白く 足は萎え 腹はぷっくり膨らんでおる
   声はしゃがれ 息は切れ 二重あごで 知恵は足りぬ
   体中あちこち古くなって がたが来ているというのに
   それでも自分を若いと言い張るのか
   どうなんだ サー・ジョン
  フォールスタッフ;閣下、わしが生まれたのは昼過ぎの三時のことでして
   そのときすでに白髪頭で 腹も膨れておりやした
   声がつぶれたのは 賛美歌を歌いすぎたためでさあ
   わしが若いままでいることは いうまでもない
   実のところ年相応なのは 判断力と物分りのよさですよ(第一幕第二場)
  Lord Chief-Justice; Do you set down your name in the scroll of youth,
   that are written down old with all the characters of age?
   Have you not a moist eye? a dry hand? A yellow cheek?
   a white beard? a decreasing leg? an increasing belly?
   is not your voice broken? Your wind short? your chin double?
   your wit single? And every part about you blasted with antiquity?
   And will you yet call yourself young?
   Fie, fie, fie, Sir John!
  FALSTAFF; My lord, I was born about three of the clock in the
   afternoon, with a white head and something a round belly.
   For my voice, I have lost it with halloing and singing of anthems.
   To approve my youth further, I will not:
   the truth is, I am only old in judgment and understanding;

昼過ぎの三時といえば黄昏に近い時間だ。黄昏時は一日の終わりに近い時間であり、人生にたとえれば晩年にあたる。しかしその時間は、これから祝祭が始まろうとする時間だ。

自分はそんな時間に生まれたのであるから、はじめから道化として相応しかったわけだ。生まれたときから白髪が生え腹が膨れていたのは、道化としての徴だ、そうフォールスタッフはいって、この劇においても、自分は道化として思う存分楽しむだろうと宣言する。

だがこの劇におけるフォールスタッフは、第一部におけると同じような意味では、道化に徹し切れていない。道化は秩序に挑戦し、あらゆるものをあべこべにする存在だが、この劇でフォールスタッフがあべこべにするのは、秩序ではなく自分自身だといえる。フォールスタッフのなすことは、けちな小悪党の猿知恵に発したものに近い。

フォールスタッフは、年相応な判断力と物分りのよさを身に着けたといっている。それは自分が道化であることを脱して、普通の悪党になったことを認めたような言葉だ。





前へHOME歴史劇ヘンリー四世第二部次へ




 


作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2009
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである