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語り部としてのコーラス:ペリクリーズ


「ペリクリーズ」は、5幕それぞれの冒頭にコーラスが出てくる。コーラスの名は「ガワー」という。シェイクスピアがこの劇の材源とした中世の小説「恋人の告白」の作者である。この作者にコーラスをさせることで、非常に長い年月や複雑な舞台装置を観客に理解してもらおうとしたのだと思うが、コーラスを持ち込むことで、劇の進行に弾みをつけることを狙っていたのかも知れない。実際の舞台の上で、このコーラスは十分に機能しているといえる。

まず劇の冒頭で、ガワーは老人の姿で現れ、観客に向かって次のように語り始める。

  昔から歌い継がれた歌を歌うために
  灰の中からよみがえりましたわたくしは
  古の詩人ガワーと申します
  どうぞごひいきに願います
  この歌は村祭りのたびごとに
  かがり火のそばでビールを飲みながら歌われ
  それを聞いた紳士淑女たちは
  貴重な教訓を読み取ったものです
  To sing a song that old was sung,
  From ashes ancient Gower is come;
  Assuming man's infirmities,
  To glad your ear, and please your eyes.
  It hath been sung at festivals,
  On ember-eves and holy-ales;
  And lords and ladies in their lives
  Have read it for restoratives:

つまりこの劇は、村祭りのたびごとに歌われ、また本の形になって紳士や淑女たちの心を慰めてきたというのだ。そこには、ただのつくり話ではなく、民衆の心を浄化する魂の歌だという自負がある。まるで、説教節の口上を聞かされているようだ。

ついでコーラスは、主人公のペリクリーズに言及する。ペリクリーズが自分の妃にと願っているアンティオキアの王女が、実は父親の王との間で近親相姦の関係に陥っていること、そんな王女を得るためには、深い謎を解かねばならないことなどが述べられ、これから始まる舞台がどのように展開していくか、観客に心の準備をしてほしいと訴える。

第二幕の冒頭では、アンティオキアから逃げてきたペリクリーズに、さらなる試練が待っていることを匂わす。

  どうかご静粛になさって
  この王が苦難に耐えるさまをご覧いただきたい
  そして肉を切らせて骨を切るということわざのとおり
  この王が大事を成し遂げるさまをご覧いただきたい
  Be quiet then as men should be,
  Till he hath pass'd necessity.
  I'll show you those in troubles reign,
  Losing a mite, a mountain gain.

口上の合間に、ペリクリーズたちの劇中人物が登場し、黙劇を行う。それはこれから展開される筋の一部を先取りしたものだ。

第二幕の中でセーザを妻に娶ったペリクリーズに、第三幕で大きな試練が訪れる。嵐に巻き込まれた船の中で妻が出産し、その産褥の床で死んでしまうのだ。そのことをガワーは先取りして説明し、ペリクリーズたちの乗った船が嵐にもまれている場面を観客に想像してほしいという。観客の想像を借りなければ、舞台の上が船の上であることなど、誰にもわからないからだ。

  かくして時を飛び越え 距離を縮め
  貝殻に乗って海をわたり 望みどおりにことを進め
  あなた方の想像の翼を借りて
  国から国へと飛び跳ねていくのです
  Thus time we waste, and longest leagues make short;
  Sail seas in cockles, have an wish but for't;
  Making, to take your imagination,
  From bourn to bourn, region to region.

第4幕では、ガワーは二度現れる。冒頭と第4場のところである。冒頭では、第三幕の時点から10年以上の時間が過ぎていることが語られる。これもまた観客の想像力を借りなければ、ならないところだとガワーはいう。

さて成長して美しい女性になったマリーナを、養母のダイオナイザが憎む。彼女があまりにも美しく賢いことの影に隠れて、自分の娘が暗愚に見えるのが我慢ならないのだ。そこでダイオナイザは家臣にマリーナを殺すように命じる。家臣はマリーナを外に連れ出して、殺そうとする。するとそこへ海賊たちが現れてマリーナをさらい、ミュティレネの売春宿に売り飛ばしてしまう。

第4幕の冒頭で再び現れたガワーは、かわいそうなマリーナが売春宿にあって、どのような苦難にみまわれていくか、観客に思わせぶりな問いかけをする。

だがその後に展開されるマリーナの話は、非常にファンタスティックなものだ。彼女は自分を手籠めにしようとする男たちをかえって、言葉の魔術で次々と悔悛させてしまうのである。

こうして成長したマリーナ、死んでいたと思っていたセーザ、主人公のペリクリーズは第5幕で結ばれることになる。

劇が終わった後、ガワーは次のような口上を言って、幕を閉じるのである。

  長らくのご辛抱ありがとうございました
  皆様方のご幸運を祈りつつ これにて幕を閉じまする
  So, on your patience evermore attending,
  New joy wait on you! Here our play has ending.





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