HOMEブログ本館英詩と英文学マザーグースブレイク詩集ビートルズ東京を描くフランス文学



フォールスタッフとヘンリー王子の滑稽劇


ヘンリー王子とフォールスタッフの関わりは、単なる無頼仲間としての単純な関係には終わらない。ヘンリー王子は時には、フォールスタッフの悪事を逆手にとって、その裏をかくようなことをやり、フォールスタッフをへこませたりする。また、ふざけあいの中で、時折まじめな顔に戻り、フォールスタッフの悪徳振りを攻めたりもする。

これに対して、フォールスタッフは、のらりくらりとかわすだけだ。フォールスタッフにとっては、その場の一瞬一瞬を難儀なくしのげればそれでよい。名誉とか恥とかは、単なる言葉に過ぎないのだから、人間はいかに楽しく生きるか、それだけが肝心なことなのだ。

この二人が演じる滑稽劇の中で、最初に演じられるのは、フォールスタッフの盗みに対して、ヘンリー王子がだましうちを食らわし、盗んだものを横取りするシーンだ。

フォールスタッフはバードルフと、街道で追いはぎをする陰謀について語る。それをイーストチープの酒場で盗み聞きしたヘンリー王子は、フォールスタッフにいっぱい食わせてやろうと思う。

ヘンリー王子はポインズと語らい、変装してフォールスタッフたちの盗みの現場に現れる。そしてフォールスタッフたちを驚かせて盗んだものを巻き上げる。その後ロンドンの酒場に戻って再会したフォールスタッフとヘンリー王子との間で、愉快な会話が繰り広げられる。

フォールスタッフは嘘八百を並べ立てて、自分たちがいかに首尾よくことを運んだか、とうとうとまくし立てる。それに対してヘンリー王子が真相を暴露すると、フォールスタッフは妙な理屈を述べて、自分の無様さを擁護する。つまり自分たちを驚かせたものがヘンリー王子であることを見抜いた上で、王子に手柄を立てさせてやったというのである。

これに続く場面では、ヘンリー王子とフォールスタッフの間で、奇妙なロールプレイが繰り広げられる。まずフォールスタッフがヘンリー四世の立場になり、ヘンリー王子に説教を垂れる。ついでヘンリー王子がヘンリー四世になり、フォールスタッフはヘンリー王子の役柄を演じる。

そこでヘンリー王子は、自分を演じるフォールスタッフに向かって、次のように切り出す。

  ヘンリー王子;若者を誤った道に導くあの悪党
   白髭の悪魔フォールスタッフのことじゃ
  フォールスタッフ;そのものなら私も存じています
  ヘンリー王子;そうであろう
  フォールスタッフ;しかしあのものが私以上に邪悪であると申せば
   自分が知っている以上のことをいうことになります
   あのものが年老いていることは たしかに白髪が物語っているとおりです
   しかしあのものがいかがわしい男であるとは
   失礼ながら 私は思いません
   暴飲暴食が悪徳でありますならば 神よ許したまえ
   年老いてなお快活なことが罪だとすれば
   私の知っている老人の多くは罰当たりだということになります
   肥満が憎むべきだとすれば 
   ファラオのやせ牛こそ愛すべきものということになります
   父上 追放するなら
   ピートを追放してください バードルフを追放してください ポインズを追放してください
   しかし愛すべきフォールスタッフ やさしいフォールスタッフ 真実なフォールスタッフ、勇敢なフォールスタッフ
   年老いてますます意気盛んなフォールスタッフ
   私の友人であるフォールスタッフを追放しないでください
   でぶっちょのフォールスタッフを追放することは
   世界中を追放することに匹敵します
  ヘンリー王子;いや、わしは断じて追放してやる(第二幕第四場)
  PRINCE HENRY; That villanous abominable misleader of youth,
   Falstaff, that old white-bearded Satan.
  FALSTAFF; My lord, the man I know.
  PRINCE HENRY; I know thou dost.
  FALSTAFF; But to say I know more harm in him than in myself,
   were to say more than I know.
   That he is old, the more the pity, his white hairs do witness it;
   But that he is, saving your reverence, a whoremaster, 
   that I utterly deny.
   If sack and sugar be a fault, God help the wicked!
   if to be old and merry be a sin,
   then many an old host that I know is damned:
   if to be fat be to be hated,
   then Pharaoh's lean kine are to be loved.
   No, my good lord;
   banish Peto, banish Bardolph, banish Poins:
   but for sweet Jack Falstaff, kind Jack Falstaff, true Jack Falstaff,
   valiant Jack Falstaff, and therefore more valiant,
   being, as he is, old Jack Falstaff,
   banish not him thy Harry's company,
   banish not him thy Harry's company:
   banish plump Jack, and banish all the world.
  PRINCE HENRY; I do, I will.

若者を誤った道に導く白髭の悪魔といわれたフォールスタッフは、ヘンリー王子の言葉を借りて、しきりと自分を擁護する。そしてでぶっちょのフォールスタッフを追放することは、世界中を追放するに等しいなどという。

これに対してヘンリー王子は、ヘンリー四世の口から出た言葉として、きっとフォールスタッフを追放してやると宣言する。その言葉どおり、ヘンリー王子はやがて国王になったときに、フォールスタッフを切り捨てるのであるが、とりあえずは彼を尊重し続ける。

この場面の最後に保安官が現れ、フォールスタッフに盗みの嫌疑をかけようとするが、それに対してヘンリー王子は、フォールスタッフがずっと酒場にいたと嘘の証言をして、彼を助けるのである。





前へHOME歴史劇ヘンリー四世第一部次へ




 


作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2009
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである