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フォールスタッフの兵隊:シェイクスピアの歴史劇「ヘンリー四世」第一部


ヘンリー四世がいよいよ反乱軍と一戦を交えるにあたって、ヘンリー王子は父親を助けるべく戦場に赴くこととなるが、それにフォールスタッフも参加する。それも一介の兵士としてではなく、傭兵の隊長としてである。フォールスタッフは傭兵を集める資金として、それなりの金までもらった。

だがフォールスタッフが集めた傭兵たちは、みな乞食同然のみすぼらしい連中ばかり。ヘンリー王子はそれを見て唖然とするが、フォールスタッフは平然としてこう答える。

  ヘンリー王子;それにしてもジャック お前の後からついてくる連中は
   いったい 何者なんだ?
  フォールスタッフ;わしの兵隊たちでさ
  ヘンリー王子;こんな哀れな連中は見たこともないぞ
  フォールスタッフ;気にしない これでもひとかどの役に立つ
   鉄砲の餌食になるには 十分でさ
   墓穴をふさぐには十分以上
   所詮人間は死ぬようにできている
  ウェストモアランド;それにしては あまりにも惨めでみすぼらしい
   まったく乞食同然だ
  フォールスタッフ;実際 こいつらの惨めな理由は わしは存ぜぬ
   こいつらがみすぼらしいのは わしのせいではござらぬ
  PRINCE HENRY; But tell me, Jack, whose
   fellows are these that come after?
  FALSTAFF; Mine, Hal, mine.
  PRINCE HENRY; I did never see such pitiful rascals.
  FALSTAFF; Tut, tut; good enough to toss;
   food for powder, food for powder;
   they'll fill a pit as well as better:
   tush, man, mortal men, mortal men.
  WESTMORELAND; Ay, but, Sir John, methinks they are exceeding
   Poor and bare, too beggarly.
  FALSTAFF; 'Faith, for their poverty, I know not where they had that;
   and for their bareness, I am sure they never learned that of me.

この連中はいづれ、フォールスタッフの言葉どおり、戦いの中で鉄砲の餌食となり、150人もいた中からわずか3人ほどしか生き残らなかった。

しかしフォールスタッフにとって、そんなことはなんのその。大事なのは名誉や勝利ではなく、自分の命と快楽だ。

  フォールスタッフ;それではまいろう
   戦いの場には一番あとから 宴会には真っ先に
   これが腰抜け侍と大食漢の守るべき掟だ(第四幕第二場)
  FALSTAFF; Well,
   To the latter end of a fray and the beginning of a feast
   Fits a dull fighter and a keen guest.

フォールスタッフにとっては、勝ち戦に乗って、そのおこぼれを頂戴することこそ、もっとも洗練された生き方なのだ。労せずして得る、これが利口なものの処世術だ。



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