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命が欲しい Give me life:シェイクスピアの歴史劇「ヘンリー四世」第一部


シュルーズベリーの戦場を、フォールスタッフは命からがら逃げ回る。そのうちウォルター・ブラントの死体にめぐり合う。ブラントはホットスパーによって殺され、地面に倒れていたのだった。

  フォールスタッフ;ロンドンじゃ勘定を払わずに食い逃げしていたが
   ここじゃそういう訳にいかぬ 頭に鉄砲玉の勘定書きを食わされかねん
   おや 誰だ? サー・ウォルター・ブラントじゃないか
   名誉はあんたのものだ 掛け値なしに!
   わしは溶けた鉛みたいに熱くなってきたぞ そのうえ体が重い
   どうか鉛玉など食らいませんように!
   重いものは自分のハラワタだけで十分だもんな
   わしの兵隊どもはあらかた死んでしまって
   今じゃ150人中3人も生きてはいない
   やつらはこれから町外れで乞食でもやるしかあるまい(第五幕第三場)
  FALSTAFF; Though I could 'scape shot-free at London,
   I fear the shot here; here's no scoring but upon the pate.
   Soft! who are you? Sir Walter Blunt:
   there's honour for you! here's no vanity!
   I am as hot as moulten lead, and as heavy too:
   God keep lead out of me!
   I need no more weight than mine own bowels.
   I have led my ragamuffins where they are peppered:
   there's not three of my hundred and fifty left alive;
   and they are for the town's end, to beg during life.

「名誉はあんたのものだ」と叫ぶことには、ブラントが死んでいることを確かめる意味がある。死んで名誉を云々されるより、不名誉でも生きていたほうがいい、それがフォールスタッフの考えだ。だからこの言葉には、名誉が死と同義であることを感じさせるところがある。

   わしにはサー・ウォルターのような苦々しい名誉はいらぬ
   それより命が欲しい もし助かるならそれでよし
   助からぬなら 名誉が招かれざる客として現れ 一巻の終わりだ
   I like not such grinning honour as Sir Walter hath:
   give me life: which if I can save, so;
   if not, honour comes unlooked for, and there's an end.

フォールスタッフはこういって、戦いが白熱してくると、死んだまねをして、相手の追及をかわそうとするにいたる。



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